図書館に行こうよ ―図書館職員の図書館的日常―      222
 
     
  「源氏物語」に挑戦する  
     
 

まずはダイジェスト版から
 現在開催している大館市立図書館の文学講座は、「源氏物語」がテーマです。「源氏物語」といえば、雅びな王朝絵巻、光源氏の華麗な恋愛物語のイメージがありますよね。名前は聞いたことはあるけれど、何となく知っているけれど、通して読んだことはないというかたが多いかと思われます。
 難しそうだし、とにかく長いんでしょ? でも一度は読んでみたいかも、という場合にお薦めなのが、現代語訳のダイジェスト版です。市立図書館にある本から探してみました。

 『円地文子の源氏物語』1~3
 『少年少女古典文学館 源氏物語』上下
 『マンガ日本の古典 源氏物語』上中下

 いずれも1冊から3冊にまとまっていて、手ごろな長さです。円地文子さんの本は全訳を成し遂げたあとに新たに現代語訳したものです。『少年少女―』は瀬戸内寂聴さんの訳です。児童書に分類されますが、読むのに年齢制限はありません。

 大筋は知っているから、もう少し色々なエピソードが知りたいなという場合は、こちら。

 『図解眠れなくなるほど面白い源氏物語』
 『まろ、ん? 大掴源氏物語』
 後者は栗のキャラクターが活躍します。


1000年前と今
 ところで、実際に読んでみると、原文が書かれたのは1000年も前のことですから、いまとは価値観も生活習慣も違うわけで、雅びなだけではなく「これはちょっと…」と思う部分も出てきます。それにはっきり言及しているのが瀬戸内さん訳の『源氏物語』の各巻巻末にある「源氏のしおり」です。
 さらに、「価値観も生活習慣も違う」と書いたばかりですが、「源氏物語」には1000年前からいまに続く社会的な問題もちりばめられています。例えば貧困、容姿格差など。それにふれたものは、山崎ナオコーラさんの『ミライの源氏物語』や、大塚ひかりさんの『源氏物語の教え もし紫式部があなたの家庭教師だったら』があります。


全訳を読んでみる
 さて、おおまかに内容を把握すると、全文を読んでみたい!となりますよね? 「源氏物語」の現代語への全訳は、いままでに多くの作家が取り組んでいます。例えば与謝野晶子、谷崎潤一郎、円地文子、瀬戸内寂聴、林望、角田光代各氏。2回、3回と全訳を試みた作家もいます。変則的なところでは田辺聖子さん、橋本治さん、英訳からの日本語訳もあります(毬矢まりえさん・森山恵さん訳など)。

 私見ですが、部分的に読み比べてみた感想を。

 谷崎潤一郎 ひたすら丁寧(新新訳)
 円地文子 さっぱりしている
 瀬戸内寂聴 谷崎訳と円地訳の中間くらいのやわらかさ
 林望 けっこうくだけている(特にセリフ)
 角田光代 さっぱりしている。一文が短い
 田辺聖子 原文を独自に取捨選択。現代語訳そのものではなく現代の小説的な描写
 橋本治 光源氏の一人称(死後は紫式部の語り)。饒舌。原文の光景を想像したときに見えるものを       文章で書きこんでいる

 以上、参考になるかわかりませんが。児童書では、物語序盤の、若紫(のちに光源氏の妻の一人になる紫の上)が登場した辺りをまとめた『源氏物語 姫君、若紫の語るお話』『まんがで読む源氏物語』などがあります。(はつらつとした若紫を目にすると、その後のお話を知っているだけに、せつないものがありますね…)


派生作品もいろいろ
 さらに「源氏物語」から想を得た作品には、光源氏の恋人の一人を語り手にした、林真理子さんの『六条御息所源氏がたり』1~3、田辺聖子さんのコミカルな「私本 源氏物語」シリーズ、推理小説仕立ての岡田鯱彦さんの『薫大将と匂の宮』などなど、すべて挙げるのが難しいほどあります。
 これだけ多くの作家が取り組むのも、「源氏物語」って奥が深くて魅力的なんだなーと思わされます。今回取り上げた本は、市立図書館で所蔵していますので、気になったら是非手に取ってみてくださいね。
(栗盛・田村)