図書館に行こうよ ―図書館職員の図書館的日常―      234
 
     
  冬来りなば春遠からじ  
     
 

冬を、読む。
 今年も寒い冬がやってきました。師も犬も走り回る年末年始、毎年変わらぬ忙しなさに目が回りそうですね。今回はそんなが舞台の児童書を三冊ご紹介致します。大人の方、そして子どもの頃に一度読んだことがある方にもオススメの作品を選ばせて頂きましたので、おうちや図書館での息抜きの際に一冊いかがでしょうか?まだまだ続く冬景の折、ささやかな彩りになれば幸いです。

・「さむがりやのサンタ」(レイモンド・ブリッグズ/著)
 クリスマスイブの夜、世界中の子ども達にプレゼントを届けにやってくるあのサンタクロース。この絵本では、寒がりで夏が大好き、気難し屋でちょっぴり愚痴っぽい、仕事後のご褒美は一杯のビール…なんだかとっても人間臭いサンタクロースが過ごすクリスマスの一日を描いたユニークな一冊となっています。仕事に追われる社会人の方は、つい親近感が湧いてしまうかも…?

・「黒ねこのおきゃくさま」(ルース・エインズワース/著)
 ある寒い冬の晩、貧しいおじいさんの元に突然やってきたのは、ずぶ濡れの瘦せこけた黒猫。残り少ない大切な食料や薪を、惜しみなくおきゃくさまへ与えるおじいさんの人柄に心洗われるやさしい絵本です。黒猫の毛並みの質感や小生意気な仕草、そこに向けるおじいさんの優しい眼差し、今にも薪の跳ねる音が聴こえてきそうな暖炉の炎など、繊細で温かみのある美しい挿絵も印象的です。挿絵だけでなく文章の隅々からもリアリティな「猫」を感じられるので、猫ちゃんの居るご家庭や動物好きな方にもオススメしたい一冊です。

・「飛ぶ教室」(エーリッヒ・ケストナー/著)
 寄宿学校のクリスマス会の劇「飛ぶ教室」の稽古に励む五人の少年達を中心に、憧れや環境への葛藤と心の成長を描いた青春児童文学です。著者の前書きや、少年達を優しく見守る大人達の言葉も印象的で、彼らの信頼関係は決して一方的なものではなく、物語を通して他者を思いやる気持ちの大切さを学ぶことができます。著者曰く「子どもの頃のことを決して忘れないで」。子どもだけでなく、かつて子どもだった大人の方々にも是非読んで欲しい珠玉の名作です。


歓を為すこと幾何ぞ
 「子どもたちよ 子ども時代を しっかりと楽しんでください。おとなになってから 老人になってから あなたを支えてくれるのは 子ども時代の「あなた」です。」(新潮社『石井桃子のことば』より引用)
 生前、『ピーターラビットのぼうけん』や『くまのプーさん』など、数々の児童文学の翻訳をされてきた児童文学作家・石井桃子さんの言葉です。彼女は子ども達、そして本をこよなく愛しており、「年齢も境遇もさまざまな子どもが、自由に出はいりして、(中略)自由に本を読み、自由に反応を示すところ」を提供する場として、自宅の一室に子どもの図書室「かつら文庫(現・東京子ども図書館)」を開設し、こども図書館の礎を築いたというエピソードがあります。彼女自身も最初から子ども達の興味関心をひく環境を心得ていたわけではなく、来館する子ども達の読書に対する反応や視点から一生涯学び続けたそうです。(著書『子どもの図書館』に当時の試行錯誤が詳しく記されています。)
 幼少期の物事に対する吸収力や想像力はまるでスポンジのようで、大人が思っている以上に素直で壮大で、そして大真面目です。「子どもだった頃のあなた」も見てきた、何もかもが新鮮でどこかこそばゆい、キラキラと目映いあの瞬間…今でも覚えていますか?誰もが一度は抱く無垢な感情や好奇心を、まずはどうか近くで見守ってあげて下さい。その成長の中で彼らが道に迷わないように、いつでも声が届く場所に居てくれる存在でいて下さい。子ども時代の「あなた」を支えてくれた存在も、限られた環境下で信頼すべき存在もまた、周りのおとな達なのですから。

 間もなくクリスマス。良いおとなにも、きっと最高のプレゼントが届くかもしれませんよ。(田代 麻)